2015年4月11日土曜日

Apr 2015 - p2/p5 - 


緊張感があるのかないのか、アクションがあるのかないのか、わからないままに続いてゆく極東緊迫のブリーフィング。アジアをゆるがす、一大陰謀が、いま行われようとしている!?二匹のトラと、世界の猛者たちの戦いの火ぶたが、切って落とされる!?


第二章 集結


香取「さて、とりあえずピザが来るまで、ブリーフィングを続けようか。で、どこまで話したかな?」

テルマ「…。二匹の虎。」

香取「お、そうそう。虎だったな。」



香取「"アムールの虎"ことゴロツキーのヴラジーミルは、ここ数年、"遼東の虎"こと石虎との会談の機会をうかがっていたと言われている。石虎の勢力が、北の地にもおよび、ゴロツキーとの小競り合いが繰り返されるようになったからだ。」

鷲尾「停戦交渉、ってことっすか?」

郷「いや、やつの狙いは両勢力の合一。合従策だ。」

鷲尾「ええ!?」

郷「言ったろう、ヴラジーミルは敵を飲み込み成長する。南から迫ってくる石虎の勢力は、やつにとっては敵というよりも、魅力的な獲物に映るわけだ。」

新橋「肉食獣を喰らう肉食獣、か。しかしそれに石虎は素直に応じるんですかね?」

香取「うむ、新橋、さすがだな。そこがわからん。石虎もまた、華北東部で敵対勢力の吸収を繰り返して成長してきた男。むしろやつこそがゴロツキーの併合を狙っているとも考えられる。あるいは、この会談はシッパイに終わり、極東にて二大勢力の全面衝突が起きる、というシナリオも考えられるだろう。いや、それこそが最悪のシナリオとも言えるな。」

新橋「そんな大イベント、世界は大注目でしょう!」

藁実「どーだっていいッスよ。おれが二人とも、とっつかまえてやりますから!」

テルマ「…。バカ。」


香取「いや、イチゴの言うとおりだ。欧州連合とロシア連邦だけではない、新中華とアメリカも動く理由は、おそらくそこにある。へたをすれば極東全域、いやゴロツキーの活動範囲を考えれば欧州から南北アメリカまで巻き込んだ地下世界の全面戦争ともなりかねないこの会談。しかし、同時に、両組織のトップを捉える恰好の機会でもある。

だからこそやつらは、その場所を東京に選んだ。」


藁実「どどど、どういう意味っスか!?」

郷「東京は、やつらにとって、要塞級のそれぞれの根城に次ぐ、最も安全な場所だからだ。」

藁実「???」

新橋「そうか…。東京では、世界中のどの国もヘタな動きができない…。」

藁実「???」

テルマ(…コイツ、ホンットに…。)

香取「当初やつらが算段していた福岡県、新潟県、北海道の無人島周辺で、国籍不明の船舶や人員が多数確認されている。いや、やつらとは違う。もっと…。」

物部「…それがEURUPOL…。」

郷「そう、それに新中華やアメリカの影もある。彼らはひとめに付きにくい無人島ならと、多少のリスクを冒してでも、強硬な手段で両巨頭を捕縛、いや、殺害しようと考えたわけだ。」

藁実「だーかーらー、殺害はダメっすよ!」

テルマ「うるさい!」

香取「いや、こればかりはイチゴに同感だ。主権国家たるこの国の存在意義が問われる。相手が犯罪者とはいえ、法的な手続きを正しく踏まずしての攻撃を許しては、法治国家としてのこの国の根幹がゆらぐ。国家は何をしてもよいのか?そんな疑問が市民のあいだに産まれる。憲法の意味がなくなる。」

香取「…しかし、そう考えない連中もいたわけだ。この国で、恐ろしい犯罪者が闊歩するのを許すほうが沽券に関わると。それくらいなら、同盟各国の兵を秘密裏に受け入れ、やつらを抹殺してしまおう、と。」


香取「まず、合衆国の特殊部隊。なんでも、駐留中のPACOM第七艦隊に所属するのとはまた違った、国防総省直属のツグマ・フォースという部隊が、新潟県沖で確認されている。」

香取「続いてはLCN、新中華連盟(League of Chinese Nations)。福岡県沖でその活動が確認された。

15年前、華北や内陸部の混乱の後に南京へ移った正統政府と、広東香港の半独立勢力が、シンガポールをはじめとした東南アジア華人社会を取り込んで成立した新国家。石虎の叔父、石勒の建設した華北の地下勢力とは冷戦状態にある。いや、石勒の時代にはそれなりにうまくやっていたが、暴虐な石虎に実権が移ってからは紛争が絶えない。

幸い、香港市民と上海浙江江蘇の企業群の主導によって民主化が進み、いまやわが国やアメリカの同盟国ともなっているかの国も、警察を派遣してきたらしい。Hong Kong Police Academyの射撃教官にして、石虎の勢力が南進してきた際の防衛戦の英雄ともなった、ジャッキー・ユン(元令震)少佐が来ているとのウワサだ。

…そして…。」



物部「…EURUPOL…。」


郷「その中でも精鋭部隊として知られる特殊部隊、LYNXだ。」



LYNX

 Libertatem Yoman
  quia Europe
         Nationalibus X

[ヨーロッパ国民のための
      自由な第十護衛兵]

ラテン語。。。
 語順や語形がメチャクチャ^_^;

郷「ひとりめは英国出身。元SASのエリート空挺兵士だったという、アンドリュー・"クックリ"・クック。母方の祖父がかの有名なグルカ兵であり、退役後の祖父に幼少時から戦技を叩き込まれたというツワモノだ。グルカ兵はネパールでスカウトされる部隊だから英国内で産まれた彼はグルカ旅団には入らなかったが、SASの中では、グルカの象徴と言えるクックリのニックネームで知られた。血筋だけあって75mmの小兵だが、その戦闘力は隊の中でも随一と言われている。

ちなみに趣味は登山。つねにバックパックを背負っているのは半分趣味らしい。。」

郷「ふたりめはフランス国籍。コートジボワールからの移民で湖沼地帯戦とジャングル戦のプロ、エマニュエル・アッカ。

こいつも登山が好きなのかは知らんが、いつも登攀用のフック付きのロープを背負っている姿からついたあだ名が、"アッカ・ド・フック"。ま、まんまだな。

愛嬌のある顔立ちだが、立体的に忍び寄り後ろからクビを、、ってとこか。EURUPOLが治安維持というよりも、攻勢の組織だってことの、いわば生き証人だ。」


郷「三人めは、カール=グスタフ・ミュラー。

Vuzibra GmbH社製の最新型スマートグラス"W1000"を愛用し、そのスクリーンに映し出されるデータを元に正確かつ迅速な指令を出し、かつ、同時にみずからも一兵士として戦闘に参加するプレイングマネージャーならぬ、ファイティングコマンダー。チームの要となる男だ。ドイツ国籍。

美しい銀髪で、悪党どもの愛人をとりこにしてしまうところも、ヨーロッパ中のワルどものあいだで嫌われている理由らしい。なんでもやつが通った後にはフェロモンで嵐のようになぎ倒された美女たちがうず高く積まれてるんだとか。で、ついたあだ名が、"カール・デァ・シュトルム"。

ま、本人はいたってまじめで、女嫌いだそうだから、いい迷惑な仇名だな。」


郷「最後のやつはナゾが多い。ロシア国籍、元KGBに所属してた、なんて噂があるが年齢的にそれは無いだろう。一方で、スペツナズの暗殺部隊に居たって話もあるし、中東でPMCのオペレーターをやってたって話もある。まあ、いわゆる正体不明ってやつだ。

名前はユーリ・ドラゴ。しかしこれだって本名だかどうか定かじゃない。一般には、"ウォーズマン"、もしくは"ボトムズ"って呼ばれてるらしい。

というのも、これが極めつけのウワサなんだが、実はニンゲンじゃなく、ロシアが秘密裏に開発した人造人間、アンドロイドなんだそうだ(笑)

ま、大げさに見積もっても、サイボーグってとこかな。

ほら、この写真、ちゃんとニンゲンの顔がある。


この暗視ゴーグルがトレードマークなだけに、あやしげなウワサになったんだろう。」

鷲尾「で、この犬は?犬の紹介はないんすか?」

ポインター「ワンワン!」

郷「ああ、イヌ、イヌ、犬ねっと…。なんだか欧州の大会で受賞した超エリート警察犬だそうだ。モンドセレクションで金賞って言ったかな。」

鷲尾「…いや、チガウと思う…。」

ポインター「クゥーン…。」


香取「まあ、とにかく。こいつらは現在の欧州最強の治安部隊、ってことだ。」

新橋「そんなやつらがこの国に…。」

郷「ちなみにこの国最強のスイーパーたちも、正体不明の人物の依頼を受けて集結しつつあるという報告が届いた。

なんでもひさしぶりに新宿駅の掲示板に、"XYZ"の文字が殴り書きされていたそうだ。最近ではSNSで呼べるってのに知らないってことは、呼んだやつは結構な年配のやつだろうっていうのが本庁の見解。」

テルマ「いや実は懐古趣味のJCかもしれないじゃないのよー。」

郷「…。」


香取「国内外だけじゃあないぞ。大気圏、いや成層圏外からも集結だ。NORADがやつらの動きを追跡している。

(って、NORADの監視網って北米以外にもあるのか??)」


新橋「しかし、そんなおおごとになってるんなら、なんで自衛隊は動かないんすか?いや、そこまでいかなくてもSAT出そうって言いだす人がいそうなものを、なんでおれらに?いや、そりゃSAT差し置いてのご指名は歓迎っすけど…。」



香取「いいところに気が付いたな、新橋。だがな、SATは出ない。いや、正確には、出られないんだ。」

一同「???」

郷「やつらは巧妙だ。会談と時を同じくして、同時多発テロを予告してきやがった。それも、国内十数か所で。。

要求は、収監中の同じく国テロ、ニコライラバザノフの解放だ。」


香取「しかし、この要求はでたらめ、単なる陽動だというのが大方の見立てだ。ヴラジーミルとニコライは実は敵対していた。一昨年、北海道を訪れたニコライが簡単に捕まったのも、そもそもヴラジーミルによって仕組まれた罠だというくらいだからな。」

鷲尾「だったら…。」

香取「だがテロ予告については、その真偽がはっきりしない以上、看過するわけにはいかんだろう。そういう訳で、自衛隊もSATも、対テロの主要な機関はすべて、予告されたテロ対象地域や施設の警備と容疑者の制圧に駆り出された。」

新橋「ってことはおれたち…。」


郷「そのとおり。テロ対策に呼ばれなかったヒマ人のおれたちが、二匹の虎退治に行く名誉あるお役目をいただいたって訳だ。」


新橋「ふざっけんなって!そりゃつまり、おれたちはパフォーマンスってことじゃないっすか?ハナからおれたちが成功するなんて、信じちゃいないと?」

藁実「え?え?どういう意味っすか?新橋さん。そもそも、なんでやつらが離島じゃなくって東京に来ることになったかって話だったのが、なんだかもうわけわかんないッスよ。。。」

テルマ「あんた…、どうしようもないね。ここまで聞いて何もわかんないの?」

新橋「だーかーらー!イチゴちゃんにもわかるように説明するとだなあ!基本的に政治家や官僚ども、国の上の連中は、国内で外国の特殊部隊だか暗殺部隊だかわかんないようなヤバいやつらに暴れられたくないわけ!市民からは治外法権なのか、って弱腰を責められるし、諸外国からはバカにされる。いまでもテロリストの楽園だの、スパイ天国だの言われてんのに、これじゃあ世界の特殊部隊見本市、暗殺でも誘拐でも何でもやってくださいって扉開け放してるみたいなもんだからなっ。

けど、かといって、SATでやつらを討ち取る自信は正直ない。自衛隊はやすやすとは動かせない。だから…当初、やつらが離島に上陸を計画した時は、諸外国の行動も見て見ぬふりをしてきた。僻地なら、市民やメディアの眼に留まらずにことが済んじまうんじゃねーかって淡い期待をしてな。さすがのテロリストどももこれには驚いたってとこだろう。まさかひとつの政府が、外国武装勢力の勝手を許すなんてフツウは思わねえ。弱腰国家のテロリスト天国を選んだつもりが、まさかの特殊部隊コンベンションに出席するハメになるとは思わなかったはずだ。

そこでやつらはこう考えた。東京にしよう。あそこならさすがに、外国特殊部隊の活動に待ったがかかるだろう。ついでに、テロ予告でもすりゃあ、事なかれ主義の官僚どもは、たとえそれが嘘だとわかりきっていても、何かあったときの万が一のために虎の子部隊をそっちに配備せざるを得ない。ご丁寧に、いかにもウソだっていう予告をしてきたところをみると、計画変更の手間がかかったはらいせにこの国を世界の嗤い者にしようっていうイジワルも含んでるんだろうな。ホントの予告だったら、まじめに配備、よくやりましたってとこだが、いまの状況は、明らかに陽動にひっかっかってる愚か者だからな。

だが愚かでも、ズル賢さだけは持ってるのがこの国のお偉いさんたちだ。どうせ、各国は東京でもバレないように何らかの行動をするだろう。国テロどもは欧州かアメリカか新中華がとっちめてくれるだろう。しかしそのことを市民や世界に知られてはいけない。あたかもみずからが動いたように見せなければいけない。ミッションを成功した国があったとしても、まさか他国で銃撃戦やりましたなんて宣伝はしないだろう。だったら…ウソでもいいから"国テロ捕縛作戦"をやっておこう。結果的には、その作戦が成功したことになるんだから…。と。」

香取「新橋、さすがだな。だがセリフが長い、長すぎるぞ。」

郷「ついでに、国テロどもはどこかの国にコロされるだろうから、結局銃を使ったってことになる。すると"不殺"を掲げているわが隊の評判は落ちざるを得ない。正直、そろそろこの隊の解散を狙っている上のやつらには、一挙両得どころか、三つも四つも得があるのさ。」

藁実「え?おれらって、解散目前なんすか?」

テルマ(ああ、イチゴちゃん。。。かわいそう…。)

香取「イチゴ。。そんなことにはさせん。おれが、そうさせるものか。そのための、おまえの拳じゃあないのか?(って、この話、ここまで来て初めて"不殺"の説明したけどいいのか?『S-最後の警官-』を知らない読者にはわからんぞ。)」

藁実「そうでしたね!おれがトラの一匹や二匹、バシバシっと殴り倒して、スパスパっと捕まえて、どんな事情があってそんな悪党になったのか、しっかり話聞いてやりますよ!」


ジリリッ ジリリッ!


郷「隊長…。」

香取「ああ。指令だな。(ピザ、まにあわなかったな(T_T)」



幕間


モソク「あ、長官?ペイソター長官っすか?なぜここに?あ、そっちは確か、、、PACOM第七艦隊総司令官?あれ?ペイソター長官の方が上席っすか?あれれ?」

グレイソソ「モソク…。これはホログラムだよ。DARPAの技術で衛星から3D映像を送っているんだ。習ったろ?席は、おおかた技官が映しマツガエたんだろうな。でも大丈夫、太平洋軍司令は寛容な人だって聞いたから、そんなこと気にしないさ。それより何だろう、何か用かな?発破かな?」

ペイソター「グレイ、モソク、首尾はどうだ。いいか、われわれの任務は、トラどもの捕獲でも殺害でもない。そんなことはどうでもいい。われわれが出るまでもなく、EURUPOLと新中華が何とかするはずだ。というよりおのれのことはおのれでやらせればいい。それより、、、」

グレイ「わかってますよ、長官。トラが"オオカミ"なのかどうかを確認する、でしょ?何度も聞きましたから。ま、最初はなんでおれらがって思いましたけど。」

ペイソター「う、うむ。そうだな。しつこかったかな。」

艦隊司令「???何やらわからん話だが、財団からも最大限の援助をしてほしいと要請があった。この海域の安全はわれわれで確保する。グレイソソ君、モズク君。よろしくな。」

モソク「モズクじゃなくてモソクっす!!(T_T) 海のモズク、縁起ワルいっす!」


謎の女「"オオカミ"の力が使われた。。」


謎の女「オオカミは始末しなければならない。それが何千年、いや一万年以上前からの…。

ユーラシアの平和は、私が守る。」



(つづく)