2014年7月2日水曜日

Jul 2014 - p2/p7 -

アゼルバイジャンで発生した二つの事件。天然ガス田労働者の暴発とフジミのライダー。銃弾を受けても猛スピードで転倒しても、怯むことなく立ち上がり立ち向かってくる男たち。まるでゾンビかバーサーカーのようなフジミの肉体。そしてこれらはつながっていた。その後も相次ぐ事件。その軌跡は、例の酒場を中心に同心円状に拡がりつつあった…








第二章 休暇は終わりぬ


- ワシントンD.C.


「モソク、わるいが出動してくれ。」

「は?タロウ司令官、何言ってんスか?おれ今週休みって、前々から言ってあったじゃないッスか!ボウズの七五三なんスよ。仕事なんかしてられないッスよっ!」

「…七五三というのは何だか知らんが、わるいが延期してくれ。」

「何なんスか、いったい。まさか、カスピ海に行ったグレイに何か!?」

「いや、そうではない。いや、グレイも連絡が取れず心配だが、まあ、やつにはよくあることだ。やつに限ってあの程度のヤマでは大事ないだろう。それより別件だ。行ってほしいのはパキスタン西北部、いわゆるトライバル・エリアだ。行方不明になった、ある女性を救出するのが目的だ。」

「はあ!?そんなの、海軍のSEALsのやつらにでも頼めばいいでしょうに!なんでウチなんスか?意味わかんねーッスよ!」

SEALs「呼んだ?」
「あ、お呼びでない?」


「バカを言うな。アフガン側じゃないんだぞ。パキスタン領内で海軍が目立った行動をしてみろ。国際問題はもとより、撤退に傾きつつある世論の集中砲火を浴びるだけだ。

行方不明になったのは、通称Woman in the yellow hat。米国のスピードワンコ財団(速犬財団)に所属するイングランド出身の植物学者、アン・カミングス博士だ。」

「ったく!なんであんなアブナイところに女ひとりで行ってんスか!?おおかた金持ちの道楽娘が高山植物でも採りに行ってとかいうオチですか?じょーーーだんじゃない!」

「…あたらずとも遠からず、だな。」

「??

とにかく、おれは行きませんよ。ほかの隊員をあたってくださいよ。そうだ、コワレスキがいいですよ!」

「ダメだ。コワレスキの風貌では現地でめだち過ぎる。モソク、おまえ、ギリシャ系だと言っていたな。あのあたりは、アレクサンダーの頃にギリシャの血が入っているから、おまえなら溶け込みやすい。」

「アレクサンダーって…。何千年前の話っすか!?カンゼンに他人っすよ。わかるわけないでしょ!行きませんっ!休暇と言ったら休暇だーーー!」

「…現地で、ドラゴンの入れ墨をした連中が目撃されている、と言ってもか?モソク。」

「!!!? ま、まさか、またドラゴソ・コートが活動を!?」

「そのまさか、かもしれん。至急現地に飛んで、調べてきてほしい。もちろんアン博士の身の安全が第一だ。それにモソク、お前自身もな。気を付けて行ってきてくれ。」

「………!!行くこと前提っスか!ったく!」


-三日前 パキスタン 西北部-

「あった!あったわ!
これよ!
これに違いない!

これで助かるんだわ!」

「…そのようだな…」

「だ、誰っ?」

「われわれが誰か。それは貴方には関係のないこと。それよりアン博士、その植物と貴方に、力を借りたいのだが、ご同行願えるかな?」

「わ、わたしを知って…」


「もちろんだとも。世界的に高名なリケ女…ではなく、植物学者にして探検家。かのカミングス卿の孫娘にして、スピードワンコ財団(速犬財団)の秘蔵っ子。特に、乾燥地帯に生育する植物の権威でいらっしゃるとか…」

「わ、わたしに何をしろと…」

「なーに、ちょっとばかりわれわれの研究に、ネ。ご協力いただこうかと思いまして。なに、おとなしくしたがっていただければ、ワルいことはいたしませんよ。われわれは、紳士です。」

「ギャハハハハ!」

「う、うう…」






- 峡谷 -

バラバラバラ
バラバラバラ
「モソク、本機は上空にて、1時間待機するっ!燃料から言っても、このあたりの治安から言っても、1時間がリミットだ。1時間が過ぎたらわれわれは一旦離脱する。くれぐれも無茶はするなよ。45分過ぎても情報が得られないときは、一旦帰投しろっ」

「はあー?何?何か言ったか?バラバラうるさくてわかんないぞ!いつも言ってるけど、ローターの前でしゃべるんじゃないよ!ぜんっぜんわかんないってのっ!」



「もしもし。あなたは地元の方?」

「はいはい。そういうあなたはアメリカ人?」

「女の子を探しています。」

「知っててもアメリカンには教えないよーだ。」

「おいおい、まあそう言わず…」

「とっとと出てけ!」

「じゃあ、竜の入れ墨のやつらを見かけなかったか?」

「何?おまえ、あいつらを探しているのか?」

「何か知ってるのかッ!」

「あいつら、ヒトの土地に土足で踏み込んで勝手なことをしやがって。聖地に入ったんじゃないかと、村でも大騒ぎさ。なんでこんなことになったんだ…それもこれも、みんなあの女の言葉を聞いたばっかりに…。」

「女?」

「あっ!」「バカ!」「…」

「わかった、教えるよ。あんた、ワルいやつじゃなさそうだしな。

ああ、女は来たよ。なんでも、ある植物を探してるんだとかで、族長と長いこと話し込んでたんだ。はじめは族長はえらい剣幕で追い返そうとしていたようなんだが、結局女に説得されちまった。あんな族長ははじめてみたよ。で、女はあの山に登ったのさ。

あれは聖地だ。誰も近づいちゃいけないんだ。あそこには、悪魔の草があるってじいさんから聞いた。じいさんはそのじいさんから、そのじいさんはそのそのじいさんから(ん?なんかおかしいか…)聞いた。もう何千年も前から、おれたちの部族は、あの山に入らず、あの山に入れず、ずっとここで、山守をしてきたのさ。なのに…」

「…悪魔の草…」

「ああ。」

「まさかケシか?アヘンか?」

「ふんっ。そんなもんじゃねえよ。ここらだからアヘンだろうなんて、にいちゃん、それはヘンケンってもんだ。おれらの部族はそんなの関わっちゃいないって。」

「すまん。しかしいずれにせよ、女と入れ墨のやつらはその山に?」

「いや、もういないだろう。昨夜、爆音が聞こえた。あれは輸送ヘリの音だ。カイバル峠の方角に飛んで行ったさ。あれがあいつらに違いない。だってほかにこのあたりに外国人は来ていないからな。」

「ちっ!遅かったか!」




「こちらペイソター。こちらペイソター。モソク、応答しろ。」
「なんスか、長官。いま忙しいんスよ。休暇も返上してね。」
「皮肉は後にしろ。アン博士の居所がわかった。すぐに向かってくれ。」
「はあ?いったいどこへ!?」

「…上海だ…」

「シャ、上海~???」




バラバラバラバラ…
かにかにかにかに♪

(つづく)