2015年2月14日土曜日

Feb 2015 -p5/p5 - 


冥府の王ハーデスの語る、もうひとつの恋物語。本当の真実はいったい?ゼウスとデメテルの立場からの説明とは違う、ハーデスとペルセポネのなれそめとは。正統ギリシア神話とはまったく異なるgene創作、異伝ギリシア神話をとくとご覧あれ。

-もう、春はそこまで来ている…-


第五章 大地の神


ザッザッ

ふー。疲れたなあ。ようやく半分くらいは刈り取ったかな。





まったく、ゼウスもポセイドンも、父さんの口から産まれ直してアニキ気取りはまあいいんだけど、いつまでも勝利に酔いしれて遊びまわってばかりいるのは何とかなんないかなあ。


ゼウスは空を飛びまわってばっかり、

ポセイドンはサーファー気取り。

二人とも女の子ばっかりおいかけて。いくら雨を降らしたり海を豊かにしても、それだけでは穀物も野菜も果物も実りはしないのに…。

ちゃんとこうやって、農耕しないとね。

ザッザッ

ボクらがクロノス父さんを倒してからというもの、大地を耕す神がいなくなったんだよね。父さんは不安脅迫症の乱暴モノだったけど、ちゃんと畑仕事はやってたんだ。それに比べてゼウスとポセイドンと言ったら…。デメテル姉さんを巡って争ってる場合じゃないよ!ホントの大地にも関心を持ってほしいよ!

この鎌、クロノス父さんが遺していった「アダマスの鎌」。これ、ガイアおばあちゃんが創ったって聞いてるけど、、、なんだってこんなに重いんだー!やせっぽっちで筋肉不足のボクには荷が重いよぉ!ゼウスとポセイドンはせっかくいい身体してるんだから、ちゃんと手伝ってほしいよ、まったく…早くしないと、もう11月が来ちゃうよ…。


あれ?何だか声がするぞ。誰だろう…。

刈り取りもまだ終わらない畑の作物をかき分けていくと、そこには…


か、か、か、可愛い~~~
あれはいったい誰だろう?声かけてみようかな…。女の子には慣れてないから自信ないけど、こんなチャンスまたとないよね。思い切って…。


ね、ねえ君、名前は?ここで何してるの?

きゃ、キャーー!ガイコツ!おばけーーーー!


え…。いや、おばけじゃなくって…

バタン

あー!倒れた!

そんな…ボクを見てショックで倒れたのかな?ボクのほうがショック!

でもそれどころじゃない、介抱しないとタイヘンだ。とりあえずうちに連れて帰って何とかしないと。

あ、キノコ君、ちょうどいいところに来た。その切り株の下の扉を開けてくれない?この子をうちに連れて行くんだ。

うん、わかったよー。よっこらせ。


ほら、これを食べて。たぶん、貧血なんだよ。女の子が血の巡りの悩みがあるときはこれがいいって聞いたよ。石榴っていうんだ。ちっちゃな実だけど、これが効くんだ。ほら、口を開けて。

う、う、

一度に食べなくっていいよ。ほら、ひとつ、ふたつ、みっつ、うん、食べられたね。これでだいじょうぶだよ。あとは少しここで休んで。暗くしておくから、ゆっくり寝てね。まだ秋の陽射しはあれで結構強いからね。ちょっと休もう。







-しばらくして-


(う、こ、ここは…どこなの?真っ暗だけど)



あ、気がついたね。ボクはハーデス。この大地を預かる者だよ。

あなた…ガイコツじゃないの?シの神様じゃないの?


ははは。やせっぽっちだからね。こんなにあばらが出てるから仕方ないか。グ、グル~キュルル~


や、おなかが鳴っちゃったね。恥ずかしいな(笑) ボクはまだ、先代の農耕の神である父さん、つまりクロノスほどには上手に畑仕事ができなくってね。十分な収穫がないから、食べ物をみんなに分け与えてたらいつもボクの分はなくなってしまって…。あんまり食べてないんだ。って、そんな言い訳どうでもいいよね、ごめん、ガイコツみたいで、気持ち悪いかな?

そう。あなたがこの大地を耕しているのね。それでそんな大きな鎌を。いま、収穫の季節なのね。


そうなんだ、これは父さんの遺産の一つで、「アダマスの鎌」っていうんだ。おばあちゃんが創ったんだって。この姿隠しのフードパーカーと二つ、僕の宝物さ。あ!そうか!さっきこのパーカー着てたから、ボクがなかなかみえなくて、驚かしてしまったんだね。ごめんね~気付かなかったよ。

(えっと、そうじゃなくて驚いたのはアバラが出てたからなんだけど…)

ううん、いいんです。それよりさっき、何かおいしいものを食べさせていただいたような?朦朧としててよくわからなかったけれど、甘酸っぱくておいしかったわ。

あ、気に入ってくれた?よかった。あれは石榴だよ。みるところ君、貧血の持病があるようだね。色白だもんね。これはとてもよく効くんだよ。もうひとつどう?

ありがとう。うん、おいしい。

よかった。


あの、よかったら、もう少しここにいていい?ここは静かで、心が安らぐわ。

う、うん、もちろんだよ!歓迎するよ!(やったー!!!)



…こうして、10月の終わりに知り合った二人は、しばらく一緒に暮らすこととなった。





-その頃-


ペルセポネ!ペルセポネや!どこなの?


デメテルは行方不明の娘を探し回りました。

太陽を運ぶ馬車を牽くヘリオスは、目撃証言を伝えました。

ただし、あまりに天高くから見ていたため、その証言はいい加減でした。。。



デメテルさん、おれは見たよ。ハーデスが、おたくの娘さんを気絶させて、毒キノコに手伝わせてねぐらに運んでいくところを。しかもでっかい鎌を持って。いったい何するつもりかわからないが、急いだ方がいい。


なんですってーーー!

プルル…プルル…

ちょっとゼウス、すぐ来て!わたしたちの娘が、ペルセポネがアブナイの!

なにっ!






ドンドンドン!
ハーデス、ハーデス、いるの!?

あ、あの声はゼウスとデメテルだ。

兄さん、姉さん、どうしたの?

どうしたのじゃないわよ、あなた、うちの娘をかどかわしたってホントなの?得体のしれない弟だけど悪いやつじゃないと思ってたのに、そんな大それたことするなんて見損なったわ。いますぐ返しなさい!

え?娘って、あの貧血で倒れた子のこと?あれ、二人の娘なの?

しらばっくれないで!

そ、そんな…。ボクそんなつもりじゃ…。あの子が急に倒れちゃったから、看病してただけなのに…。

ウソ言いなさい!ヘリオスが、あんたがペルセポネをさらうところを目撃したって言ってんのよ、このヘンタイ!

うーん、ハーデス、おまえ、モテないからっていくらなんでもそれはダメだぞ。ケイベツするぞ。これでおまえ、オリンポスの政権にももう入れないな。民心は正直だからな。

ま、とっととペルセポネを返して償いをするんだな。罪には罰。これが秩序だ。まったく、こんなだからオヤジにいいように飲み込まれたりするんだぞ。

『我が子を喰らうサトゥルヌス』
…ハーデスのトラウマ…


う、ヒ、ヒドイよ…ヒドイよ…二人ともそんな言い方、ヒドいよ!
ボ、ボクは、ボクは…



怒ったぞーーー!!


うわっ!なんだなんだ!



特に、遊んでばかりで何もしてないゼウス!おまえ、こっちが黙ってガマンしてりゃあどこまでも図に乗ってアニキ気取りしやがって。長兄はホントはオレだったってわかってわざと言ってるんだろ、このヤロー!ヘラ姉さんを泣かせ、デメテル姉さんを泣かせ、あっちこっちで好き放題やってる歩く不倫者のおまえに倫理だ秩序だで文句を言われる筋合いはないぞ!うわーーーーー!


ババーン!!

な、何なの、これ?

こ、これは、ティタノマキアーの時に現れた謎の破壊神!クロノスを討ち取った最後の一撃を放った怪神だ!

え?クロノスを討ったのはゼウス、あなたじゃなかったの?

い、いや、むにゃむにゃ…(う、と、とどめ刺したのはおれだけど、そもそもはこの怪神が出てきて巨神クロノスを一撃で倒して…その後でおれたち12神の戦士たちで囲んで…。う…。バレたか…。)


オオオーーーーン
オオオーーーーン


ハーデスは怒った。ハーデスはキレた。キレたハーデスはトランス状態となり、おとなしい性格と優しい性根の内に隠された、荒ぶる神の本性を発露させた。その姿は凶悪な魔神、シと破壊を司る闇の王の姿と化し、あらゆる神の命を危機にさらすほどの桁違いの力を発現させたのだ。

…ちなみにキレた理由は、トラウマとなっていた父クロノスに食べられた話題に触れられたからかもしれない。先の大戦ティタノマキアーの時も、父クロノスの巨神変化をみるにつけ、幼い頃に飲み込まれた恐怖を思い出し、この魔神の姿と化したのだ。…


オオーーン!


う、うわー!これはまずい、デメテル、ひとまず逃げよう。

ペ、ペルセポネー!あなたも逃げて!


父さん!母さん!待って!違うの、違うのよ!

何が違うの!?



ハーデスさんは、この方は、わたしを助けてくれたのよ!この方の姿だけで判断しておびえてしまったわたしに嫌な顔ひとつせず、貧血で倒れたわたしを助けてくれたの。

おいしい果物もいただいたわ。この方は、優しい方なの。父さま母さまが言うようなヘンタイさんじゃないの!


あなた、何を食べたって?この部屋のものを食べたの!?

ええ、石榴っていうんですって。とってもみずみずしくておいしい果物だったわ。四粒いただいたの。お二人ともご存じ?母さまが司るこの大地をいま耕して実りをもたらしてくれているのは、このハーデスさまなのよ。ハーデスさまはコワい神さまじゃなくって、農耕の神さまなのよ。






オオオーーーン

うーむ、これはマズいな。たとえペルセポネの言っていることがホントウだとしても最早手遅れ。こうなってしまっては、力で停める以外に方法はない。新たなる戦いだ。兄弟同士争うつもりはなかったが、新たなるマキアーのはじまりだ!タルタロマキアー(地底戦争)だ!



やめてーーーーーーーーー!












その時!

ドーン!














ワッパども、やかましいぞ。ゼウス、何を理不尽を言っているか。おまえは一度空へ戻って頭を冷やすが良い。


それにデメテル、そなたも娘可愛さあまりに道理を失っていますね。ここはひとまず、帰りなさい。



だ、誰だっ!
あ、あなたは…


やかましいわ。帰れというたら帰れというに。

ふふふ、その通りね。フッ。


うわーーー!あーれー!






オオオーーーン
オオオーーーン

じゃ、じゃま、す、るな…

これ、ハーデスよ、そなたも我を忘れるとは情けない。

かの「アダマスの鎌」を受け継いだのがお主と聞いて安心していたが、これでは期待外れだったか?いや、そうでもあるまい。眼を覚ませ、ハーデスよ。大地を耕す神よ。心優しきあのハーデスに戻るのだ。

喝っ!!!


















はっ。ここは…

ここは、そうだな、言うなれば「冥界」。そなたが、そなたの隠された力を以て創り上げた、大地の裏側にあたる新たなる世界だ。


もとは切り株の下にあったそなたの部屋だったようだがな。みろ、この巨大な空間、深遠なる虚ろを。まったく、おそろしいやつじゃ。

め、冥界…。


そうじゃ、よいかハーデス。そなたはこの世界を創った責任を取り、これより先ここを治めていくのじゃ。地上を去った生命は皆、次なる生を待つあいだここに集うであろう。その魂たちをそなたが統べるのじゃ、冥王ハーデスよ。

冥王だって?

い、いやだよ。シ者たちの王だなんて、ボク怖いよ。ゼウスは空、ポセイドンは海、なのにボクはオバケの王だなんて、あんまりだ!




オバケ…



これこれ、そなた、何か勘違いしていないか?やれやれ、農耕に詳しいそなたならと思ったのに、情けない。

え?


いいこと、あなた、収穫の後、穀物がどうなるか知っているでしょう?草木は永遠に茂り続けるわけではなく、一度葉を落とし、茎を枯らし、種となって、寒い世界を乗り切る。いわば植物たちも一度シぬわけだけど、その後どうなるか、よく知っているでしょう?






う、うん。。

枯れたかにみえる植物も、根は生きていたりするし、


そうでないものも種や球根となって次の芽吹きの季節を待つよ。


そう、そしてそれは、獣や虫たちも同じ。いいえ、草木、獣、鳥、虫、きのこ、あらゆるものが連関して、生命の流れを繋いでいっておること、そなたはよく知っていますね?


うん。命をまっとうした獣や鳥や虫たちは、枯れた草木たちと同じく、きのこやカビたちによって一度ばらばらにされ、でも、そのばらばらにされた身体がまた、次の命を養う糧となるよ。

そうじゃ。神々や人々とて同じ。一度生をまっとうしたものは、ここ冥界へと降り、次なる命の糧となりてまた表の世界へ戻っていく日を待つ。いわば、植物や動物が一度大地に還るように、神や人の命もまた、一度大地に還る。冥府というのは…



そ、そうか。つまり大地そのもの。


そのとおりじゃ。表にみえているデメテルの統べる大地と、そなたのこの裏の冥界は、表裏一体。同じものともいえるの。


そうか、ボクは耕す神。この大地を、生命の連鎖を、耕し続ける神。それが、「冥王」。




やれやれ、ようやくわかったか。

ふふふ。





そっちのお嬢ちゃんはどうじゃ?こう見えてこやつはなかなか見どころのある若者じゃ。これからこうして、この星の命の、影の守り神となるじゃろう。そなた、この者と連れ添って、共に冥府を治めるか?



え?
え?



そうじゃ。
冥界の女王、ペルセポネよ。



わ、わたし、そんな、自信がないわ。


ボ、ボクも、、こんなヘンな体質じゃあペルセポネをおびえさせちゃうよ。彼女のことはザンネンだけど諦めるよ。

ん?体質?


うぉ、お主いつのまにまたその姿に!さては癖がついたな…。やれやれ。しかしまあ、心配するでない若者たちよ。二人とも、その姿のままではもういられん。ハーデスは、恐怖される王ではなく畏怖される王にふさわしい姿に。そしてお嬢ちゃんも、もうそろそろ、オトナになっていい頃じゃからな。



どうじゃ、わしらとひとつにならんか?

そうね、融合しましょう。


え?え?っていうかあなたたちは誰?

はっはっは。まだわからんのか。わしはな、、、


わしは、その「アダマスの鎌」でヒドいめにあわされた、最初の神、ウラノスと呼ばれた神の、霊魂よ。

え!!ウラノス?ってことはおじいちゃん?じゃあもしかして…


そう、わたくしはガイア。最初の大地の女神、ガイア。デメテルの二代前の大地母神、その霊魂よ。

おばあちゃん…

ペルセポネ、あなたにとってはひいおばあちゃんとひいおじいちゃんよ。


わしらは魂となり、このような清らかで澄んだ姿となることができ、その心もまた平穏だ。ハーデス、そなたの我を忘れたその姿を元に戻し、またペルセポネがこの冥府で瘴気におかされることなきようにするには、わしらを取り込むしか方法はない。どうじゃ。元の姿を保てなくなるのは不安だろうが、ワルイ話ではないだろう?

う、うん…。


よし、話は決まった。ではさっそく融合しよう。言っておくが、融合後のわたしたちは、もはやウラノスでもガイアでも、ハーデスでもペルセポネでもない。まったく新たな、冥府の、すなわち真の大地の守り神となるだろう。よいな?

わかりました。
わかったよ。


では、いざ…


ぶぶぶーん










…う、うっ。

あなたは、、、ハーデスさま?それともウラノス?


…。う、うう。

そういう君は、ペルセポネかい?それともガイア?

ふふふ。もはやそんなことはどうでもいいわね。こうして、二人一緒にいるのですから。

そうだね。でも、ペルセポネ、君は一度母上の、デメテルの元にも戻った方がいい。デメテルだって心配してる。僕もいいけど、母上も大事にしてあげて。女の子はお母さんと一緒にいるのも大事だよ。

ハ、ハーデス…

さあ、行こう。






-そして地上にて…-


お、お前は誰だ!

ゼウスよ。われは、ウラノス。

な、なに!


なーんちゃって。まあ、ウラノスでもあるけど、ハーデスだよ。何故だかわからないけど、融合したのちに残ったのは僕の方の意識だった。(それにちゃんとツイてるみたいだし…。)

わたしも同じです。ガイアの魂を確かに感じるけれど、わたしはお二人の娘、ペルセポネです。


ああ、ペルセポネ。あなた髪の毛をものすごい色に染めたのね…。お母さんはかなしいわ…。


…。




お母さま。わたしはこのハーデスさまと共に、冥府を、地下の世界を治めていく決心をしました。でも心配しないでください。地下の世界は、冥界は、母さまの治める大地と表裏一体のもの。わたしはこの11月から四か月のあいだは、地下の世界で冥府の女王として冬を治めます。けれども、3月の芽吹きの季節には、毎年地上に戻り、母さまと共に暮らしましょう。その時には、母さまとわたしと二人の地母神の力を以て、一年の内で最も、植物も動物も花開き命を悦ぶ時としましょう。(どうやらもうわたしのほうが力強そうだから…。)


ゼウス、そういうことだ。異論はないな。

う、うむ。。いいだろう。ではこれで、一件落着だな。


って、おまえー、ひとことくらい謝れーーー!

うわーーーー!ま、魔神モードだぁ!ハーデスがまた魔神になった!ご、ご、ごめんっ!すまなかった~






なーんちゃって。

じゃ。僕らはもうしばらくのあいだ、黄泉の国で過ごすから、行くね。ゼウス、デメテル、また。あ、そうそう、ポセイドンと、ヘスティアー姉さん、ヘラ姉さんにもよろしくね。


お父さま、お母さま、お達者で。


また、

春がやってくる

その頃まで…。








そう、そして、春は、
もうすぐそこまで来ていた











-異伝 ハーデスとペルセポネ-

-完-