2015年9月18日金曜日

Sep 2015 - Chapter 3 

「城での暮らしに嫌気がさした僕は、やがて時折抜け出しては、近隣の村を散策するようになっていた。キタイへ行く勇気はまだ出なかったけれど、見知らぬ人々や風物を眼にすることで、少しでも旅に出た気持ちになろうとしていたんだろう。聴きなれぬ言葉、旧い遺跡や碑文、それに地元の民の風変わりな祭りは、僕の心をなぐさめた。僕はいつしか、彼らに興味を持ち始めていた。どことなく僕らに似ているものの、まったく違う彼ら。騎士団では彼らを、"プルーセン"と呼んでいた。」


第三章 プルーセン


当時、彼ら東方辺境の民族は苦境に立たされていた。

東方植民、北方十字軍、そうした名のもとにヨーロッパ中部から東に向けて吹き荒れた嵐の中、彼らは苦しい立場にあった。

異教徒と呼ばれた、彼らは。




彼らの名は、プルーセン。いや、彼ら自身が何と名乗ったか、それは定かではないが、騎士団たちは彼らをそう呼んでいた。

神を信じぬ者、聞きなれぬ言葉を話す者、旧き神を祀り、まつろわぬ者。

リヴォニアのリーヴ人や、ラトヴィア、リトアニアの諸族と並んで、彼らバルトの民はプルーセンと呼ばれた。


ワンワンワン!
ワンワンワン!

<来たぞーー
リヴォニアだー!
帯剣騎士団だー!!
悪鬼の騎士団が、
この村にも
やってきたぞー>

ワンワンワン!

ええい、やかましい犬っころめ。あっちへ行ってろっ。ケダモノを祀る怪しげな村とは聞いていたが、まさかおまえがこの村の神だとでもいうのか?ええ?このワンコロがっ。

わっはっは!
ワッハッハ!

村長はどこだー
大人しく村を
明け渡せーーーー

<お、おのれ、乱暴者どもめっ。われらは何も、お前たち植民者をこばもうと言っているのではない。われらの信仰われらの言葉、われらの文化を認め、われらと共存しようと言っているだけではないか…。そ、それを…。>

うるせー 何言ってるかわからんが、どうせ文化がとか、共存とか、そんなトコだろ?そんなのイチイチ認めてたらこっちの儲けが減るんだよっ。おまえらバルトの農民は大人しく、おれたちに同化するか、じゃなきゃ農奴にでもなりなっ。犬コロめっ。

<我らは、誇り高き民ッ!

キサマら侵略者に、土地はもちろんのこと、先祖伝来の伝統も、我らが文化も、譲れるものかッ!

いざ、迎え撃つぞ!>

<おうっ!>




<それーーーー!>

<リヴォニア帯剣騎士団を、追い払えーーー!村を守れーー!我らが土地を、言葉を、守れーーー!>


ワアワアワア
ワアワアワア
ワアワアワア









…しかし、戦況は次第に、先住の民に不利に働き始めていた。

テュートン騎士団との戦いもしかり、リヴォニアから転進してきた帯剣騎士団との戦いもしかり。三つ巴の様相を呈した戦いの中、戦況は次第に、プルーセンの滅びを予感させるものとなりつつあった…。


<お、長。。おれたち、、もう、、>

<言うなっ。弱音を吐くな。我らは、我らが民の中でも残された数少ない戦士の集落。ここが落ちればもう、あとはやつらの思うつぼだぞ。>


<だ、だけど、他の村の長や地主たちの中には、やつらに尻尾を振って、ドイツ語を覚えて、やつらの神の教えを受け入れて、うまくやってるやつらもいるって聞くぞ。おれたちだけがここでこうして闘って、なんになる…>

<誇りや、気風は、そんなに大事か?まず生きなければ、じゃないのか?>

<いや、だがそもそも土地が奪われては、生きられないぞ。やつらになびいて楽をしているものも確かにいるが、大半の民はやつらにうまく使役され、ドレイ同然の暮らしを強いられているとも聞く。。。>


クゥーン
クゥーン
クゥ~~ン

<…。
……。
こんな時、
 彼がいてくれれば…。>

<バカ、
 あれはただの伝説…>



<…いや、それがな、実は最近、彼をみたという者が、いるのだ。>

<なにっ!!
そ、それはホントウか!マツガイないのか!?
またいつもの、カンチガイ、酔っ払いの戯れ事、そういうのじゃ?>

<…いや、たぶん、そうじゃない。>

<何でわかる?>

<…その者は、彼をみたという農夫は、、>


<黄金の毛の房を一束、持っていたんだ。>


<!!!!>