Sep 2015 - Chapter 3
「城での暮らしに嫌気がさした僕は、やがて時折抜け出しては、近隣の村を散策するようになっていた。キタイへ行く勇気はまだ出なかったけれど、見知らぬ人々や風物を眼にすることで、少しでも旅に出た気持ちになろうとしていたんだろう。聴きなれぬ言葉、旧い遺跡や碑文、それに地元の民の風変わりな祭りは、僕の心をなぐさめた。僕はいつしか、彼らに興味を持ち始めていた。どことなく僕らに似ているものの、まったく違う彼ら。騎士団では彼らを、"プルーセン"と呼んでいた。」第三章 プルーセン
当時、彼ら東方辺境の民族は苦境に立たされていた。
東方植民、北方十字軍、そうした名のもとにヨーロッパ中部から東に向けて吹き荒れた嵐の中、彼らは苦しい立場にあった。
異教徒と呼ばれた、彼らは。
彼らの名は、プルーセン。いや、彼ら自身が何と名乗ったか、それは定かではないが、騎士団たちは彼らをそう呼んでいた。
神を信じぬ者、聞きなれぬ言葉を話す者、旧き神を祀り、まつろわぬ者。
リヴォニアのリーヴ人や、ラトヴィア、リトアニアの諸族と並んで、彼らバルトの民はプルーセンと呼ばれた。
ワンワンワン!
ワンワンワン!
<来たぞーー
リヴォニアだー!
帯剣騎士団だー!!
悪鬼の騎士団が、
この村にも
やってきたぞー>
ワンワンワン!
ええい、やかましい犬っころめ。あっちへ行ってろっ。ケダモノを祀る怪しげな村とは聞いていたが、まさかおまえがこの村の神だとでもいうのか?ええ?このワンコロがっ。
わっはっは!
ワッハッハ!
村長はどこだー
大人しく村を
明け渡せーーーー
<お、おのれ、乱暴者どもめっ。われらは何も、お前たち植民者をこばもうと言っているのではない。われらの信仰、われらの言葉、われらの文化を認め、われらと共存しようと言っているだけではないか…。そ、それを…。>
うるせー 何言ってるかわからんが、どうせ文化がとか、共存とか、そんなトコだろ?そんなのイチイチ認めてたらこっちの儲けが減るんだよっ。おまえらバルトの農民は大人しく、おれたちに同化するか、じゃなきゃ農奴にでもなりなっ。犬コロめっ。
<我らは、誇り高き民ッ!
キサマら侵略者に、土地はもちろんのこと、先祖伝来の伝統も、我らが文化も、譲れるものかッ!
いざ、迎え撃つぞ!>
<おうっ!>
<それーーーー!>
<リヴォニア帯剣騎士団を、追い払えーーー!村を守れーー!我らが土地を、言葉を、守れーーー!>
ワアワアワア
ワアワアワア
ワアワアワア
…しかし、戦況は次第に、先住の民に不利に働き始めていた。
テュートン騎士団との戦いもしかり、リヴォニアから転進してきた帯剣騎士団との戦いもしかり。三つ巴の様相を呈した戦いの中、戦況は次第に、プルーセンの滅びを予感させるものとなりつつあった…。
<お、長。。おれたち、、もう、、>
<言うなっ。弱音を吐くな。我らは、我らが民の中でも残された数少ない戦士の集落。ここが落ちればもう、あとはやつらの思うつぼだぞ。>
<だ、だけど、他の村の長や地主たちの中には、やつらに尻尾を振って、ドイツ語を覚えて、やつらの神の教えを受け入れて、うまくやってるやつらもいるって聞くぞ。おれたちだけがここでこうして闘って、なんになる…>
<誇りや、気風は、そんなに大事か?まず生きなければ、じゃないのか?>
<いや、だがそもそも土地が奪われては、生きられないぞ。やつらになびいて楽をしているものも確かにいるが、大半の民はやつらにうまく使役され、ドレイ同然の暮らしを強いられているとも聞く。。。>
クゥーン
クゥーン
クゥ~~ン
<…。
……。
こんな時、
彼がいてくれれば…。>
<バカ、
あれはただの伝説…>
あれはただの伝説…>
<…いや、それがな、実は最近、彼をみたという者が、いるのだ。>
<なにっ!!
そ、それはホントウか!マツガイないのか!?
またいつもの、カンチガイ、酔っ払いの戯れ事、そういうのじゃ?>
<…いや、たぶん、そうじゃない。>
<何でわかる?>
<…その者は、彼をみたという農夫は、、>
<黄金の毛の房を一束、持っていたんだ。>
<黄金の毛の房を一束、持っていたんだ。>
<!!!!>