Sep 2015 - Chapter 2
「あの夜、僕は決めた。いつか、いつか、この城を抜け出そう。ここに居たら僕はずっと、ダメなやつで終わってしまう。ホントウは違うのに。だから僕は、あの城を出て、もっと東へ、大陸の奥深く、そしてキタイへ独り向かおう。そう決めた。でも、その「いつか」は、結局またいつも、持ち越された。」第二章 リヴォニア帯剣騎士団
…ザッ
その夜、
第三管区駐屯地に
夜陰に乗じて忍び寄る
影があった
禍々しき気配をまとい
黙々と歩を進めるそれは
さながら
野獣であった
彼らの名は、リヴォニア帯剣騎士団。
前世紀末、教皇インノケンティウス三世の勅許を得たシトー会のアルベルトにより集められた東方十字軍兵士たちは、リガを拠点に当時リーヴ人と言われた異教徒を殲滅。服属させたリーヴ人に労役を課してはリガを増築。アルベルトはリガ司教として、騎士団員と総長のさらに上に君臨。近隣のスウェーデン、デンマーク、エストニアとも覇を競う勢力となっていた。
その名声は…暴虐。
ローマ教会でも問題とされるほどの残忍な戦闘ぶりと苛烈な収奪は、現地において恐怖の代名詞となっていた。。。
だ、誰だッ!
お、お前たちは…
であえ、であーい!
賊の侵入だ!
夜襲だ、
リヴォニア帯剣騎士団の
侵攻だぁ!
やかましいわ、この歩哨が。我らが狙いは管区長の首のみ。大人しくしていれば見逃してやろうものを、これでは我らもヒト暴れせねばならなくなったではないか。なあ。
はっはっは。
ハッハッハ。
く、ハナからそのつもりのくせに…
しばらく眠ってろ、この雑兵が!
ブーンッ!
ドガッ
う、うわーーー
ハッハッハ、これで六つめか。テュートン騎士団、恐るるに足らず。こうして管区をひとつずつ夜襲で落としていけばやつらがいかに大軍を持ってしようともわれらの東方を奪うことはできまい。各個撃破、奇襲、戦術の妙というものよな。
さすがは隊長。智慧のまわり方が、あのボンボンどもとは一味もふた味も違いますな。
この地は、バルトの地は、アルベルト司教さまと我らリヴォニア帯剣騎士団のもの。後からやってきたやつらに我が物顔をされてはたまりませんからな。
うむ。何よりこの地は、儲かるからな。わっはっは!
ワッハッハ!
ワッハッハ!
…ん?
あの音は?
来たか…
貴様がここの管区長、ヘルムートか!いざ我らが鉄槌を受けよ!
やかましーーー!
鉄槌ならこっちにも!
メイス対決、
雌雄を決するか!?
どこの誰がボンボンだッ。ザルツァさまの信任を得た辺境攻略隊長のこのおれをナメるなよッ。トヤー!
(…管区長、やるな…ただの話の長い説教おやじじゃないってわけか。これはわたしも負けていられんな。手柄を立てて、昇進せねば。父上や兄上に誇る話のひとつやふたつ、つくっておかねばな。)
(う、う、うわー。。。戦いだ。ホンモノの戦いだ。。。足がすくむよ。こ、コワいよ。。僕は荒事はニガテなんだ。。。ああ、どこかに隠れていたいなあ。。)
(どうやら僕たちは優勢のようだし、ここは管区長とあのマントの坊ちゃんに任せて、僕は後ろに隠れて、い、いや、後方を護って…)
チャン!チャン!
カキン!
ドガッ
バキ
ドド
…
……
………
やがて戦いはテュートン騎士団のひとまずの勝利に終わり、夜襲をかけたリヴォニア帯剣騎士団は一旦退却していった。
…やれやれ、ジークフリート君とやらよ。昨夜は何をしていたんだ。闘いが始まるやいなや、キミの姿が見えなかったようだが?よもや、隠れていたのではあるまいな?
あ、い、いや、僕戦いは…
はあ。居眠りはするわ、戦いでは役に立たんわ、キミはいったい何を求めてここにやってきた?修道会とは言っても騎士団、それはわかっていたことだろう。何をいまさら…
(…う、僕はホントはこんなダメなニンゲンじゃないはずなのに、ここにいるとどんどん、落ちこぼれのレッテルを貼られていくぞ。これじゃあマズい。僕は、僕は、ホントは…)
(やれやれ。覚悟の足りない坊やが何をどうマチガってここに紛れ込んだかしらんが、足手まといこの上ないな。まあ、ああいう輩がいるからわたしの手柄が引き立つともいえるが、それにしてもいったいどんなやつなんだ…)
(ジークフリート君、だいじょうぶですよ。僕も昨日は不意打ちを喰らってとても怖かったけれど、管区長さんたちがやってきてくれたらまた立ち上がって戦うことができた。君もすぐに慣れますよ。)
(う、う、何だかみんなが僕に、蔑みと同情と憐憫の視線を向けているのがわかるよ。。。こんなとこ、こんなとこ、、来るんじゃなかったよ。。。
キタイに、もっと東に、向かえば良かったよ。。。)