2015年9月20日日曜日

Sep 2015 - Chapter 5 

「湖沼地帯で出会ったプルーセンの農夫は、牛車を牽いてそのままどこかへ消えてしまった。あの時、彼を追っていたら、彼の積荷をみていたら、僕たちの結末はもっともっと違うものになっていたのかもしれない。プルーセンたちの運命も、僕の人生も。けれどもその時は、誰もそんなことには気が付かなかった。そして結局、あの農夫はあの日、彼らの集落に辿り着いたのだろう。」


第五章 隻眼のネウロ 


…遅いな。

…やっぱり、ウソだったんじゃないか?

…うむ。。

…いるはずがないさ。彼は、遠くの大陸に旅立ったとじいさんに聞いたもの。

…いやおれは東の奥地へ分け入ったと聞いたぜ。





ゴロゴロ
ゴロゴロ

モウー

やあやあ、皆の衆、遅くなってすまんのぉ。すっかり暗くなってしまったわい。やれやれ。

お!!じいさん、ポトリンポじいさん、来たか!


いやー、すまんすまん、ペコルスよ。途中、とんだ騒ぎに出くわしてな。

どうした?

うむ、あの憎らしい帯剣騎士団のやつらに襲われたのよ。おまえさんのその『ペルキューナスの斧』もないときにな。危うくこのまま終わりかと思ったワイ。

なにっ!よくぞ無事で。


うむ。それがなあ。また不思議なことに、あれはテュートンの騎士団のやつらだと思うのだが、若い兄ちゃんたちが二人いてな。そのうちのひとりが大暴れして、わしを助け出してくれたのよ。

な、なんだって?騎士団が??そんな、信じられん…

まあ、何にせよ、助かったわい。それよりペコルスよ、頭の包帯はとれたのか?すっかりよくなったようだな。

ポトリンポじいさん、おかげさまでな。それより、例の彼は?

うむ。


…ホントウに、ほんとうにあの、伝説の、"ネウロ"なのか?

…だとしたらいったい幾つなんだ…

わからん。だがわしがこのお人にあったとき、寝ぼけていたこのお人は確かに、ネウロという言葉を口にしたんじゃよ。



なあ、御仁よ。

…。

なあ。

…。


どうした?返事がないではないか?

どうせまた、眠っておるのだろう。何やらこの御仁、えらく眠いらしくてな。わしが見つけたときも、その後も、ほとんどずーっと眠って過ごしておるんじゃよ。

…だいじょうぶなのか??

まあ、とにかくちょっと起こして話をしてみんことにはな。


おーい、おーい、御仁よ。ネウロの御仁よーい。ちょこっと眼を覚まして、わしらの話を聞いてはくれんか。のお。


ぐーぐー
すぴーすぴー

…やはり眠っておるな。

おーい!おーい、御仁よ!!



ガサゴソ
ガサゴソ

おい、起きなされっ。みんな疲れも痛みも押して、御仁のおいでなさるのを待っておったのだ。ほんの少しでよいから、起きなされっ。

うーん。。むにゃむにゃ。

…まったく…。



こりゃーー!
おきなされっ!!

えいっ

バサッ


おおうっ!

あの頭巾はっ!

話に聞く、ネウリの黄金の…

ほ、ホンモノなのかっ!?

う、うーん。。
むにゃむにゃ。。

なんだ…?
もう朝なのか?
というかわしは朝でも
寝ていたいんだが…
何せもうかれこれ…

むにゃむにゃ。。

…アッティラのやつが消えたのをチャンスと、一族をキンブリヴィデヴートとブルテーノの兄弟に預けて、東へ北へわけいり、わしをこんな風な呪いにかけたものの正体を探り…むにゃむにゃ…凍てつく大地を、氷の湖を、雪積もる森林をヒガシヘヒガシヘ…むにゃむにゃ…やがて、頭巾をみたという噂をたどってさらにヒガシヘ。それから凍った海を越えて、見知らぬ大陸へ…むにゃむにゃ…あそこは広大だった。。。そしてあいつに出会って。。。むにゃむにゃ…。荒れ果てた地を二人で旅して、また海があって、そしてこんどはあやつがやってきて。。ガウガウとか…ははは…おもろいやつだったな…むにゃむにゃ…

…なんだなんだ?
…寝言か?
…このお人、ダメなんじゃないか…?
…おい、ポトリンポじいさん、どうなってるんだ??

…。
えーい、起きろーー!

うわっ、ビックリしたっ!

??

はて、見慣れぬところ。
ここはどこだ?


おおっ。
起きた!喋ったぞ!

ホレホレホレ!皆の者、静まれ静まれっ。そして、頭が高いぞっ!この御仁は、われらがプルーセンの、いや、プルーセン、リーヴ、リトアニアらのすべての長とも言える、、、あの、、、

ネウリのお人、
「隻眼のネウロ」
その人であるぞ!


おおおおおお!



こ、この方が…

ホントウに、いたんだ…

じっちゃんから聞いた姿、
そのままだ…

「隻眼のネウロ」

な、なんと神々しいお姿…

助かった…

これでわれらも…

(T_T)

ネ、ネウロさまーーーー!

ネウロさまっ。ご降臨、ありがたき幸せっっ。どうか、どうか、われらをお導き、そして、お救いくだされっ。われらはもう、あなた様をおいてしか、すがる先がありませぬ。

…おまえら、誰?


は?

い、いえ、われらは、われらはあなたさまが導きし、民がひとつ、プルーセンの末裔。これは、わたくしめ、ペコルスが率いるその一団にございます。どうかわれらプルーセンを、かの憎き騎士団どもから、「神の教え」とやらを押し付けてくるきゃつらから、お救いください(T_T) 神よ!!!

知らんな。そして、イヤだ。
…だいたい神じゃねーし…
…ネウロって、名前じゃねーし…




ななな、何をおっしゃいますっ。なにとぞ、なにとぞっ。


ん?その斧…
『ペルキューナスの斧』か!?
それにその印…



ふん。そうか。だんだん眼が覚めてきたぞ。おまえら、確かにおれたちネウリの血、ネウリの文物を受け継ぐもののようだな。なるほど、どうりで言葉も、えらく訛ってはいるが、わかるわけだ。…なるほどな。では、あのガウガウの言うことはやはりホントウだったのだな。バルトから西回りで来たと。おどろいたもんだ。わしと反対から。ウソだと思ってもしやと東へ進み続けてみれば、こうして戻ってくるとは…。してみるとこの世界はあれか?筒のような形をしておるのか?こう地図をくるっと丸めたような…?ふふん、そうするとやはり、あの島が例のクヌートとかいうやつの攻めた島、それにあの北の海が、オーラヴとかいうやつの沈んだ海。あのガウガウのやつが、ビョルンとかいうやつが言ったことはホントウだったのだな。バカモノかと思ったが、やれ、わるいことをしたかな。ということは、道中見かけた白装束に十字の印のやつら、あれが、ビョルンのやつが言っていた、オーラヴやクヌートと同じ神を信ずるという輩なのだな。どうもやつらの言葉にも、聞き覚えがあるような気もするが…あれはアラマンニブルグンド、それにランゴバルドゴスの言葉ではないのか?はて。おお、そういうことか。ビョルンが言っていたローマの皇帝。そんなものはもうおりゃあせんとわしは言ったが、そういうことか。やつら、ローマを飲み込み、そしてローマに飲み込まれたという訳か。皇帝に、あの十字架の男への信仰。あれを、やつらがのぉ。そうか。かれこれ800年近いのだから、それもあるのか。ふうむ。ニンゲンって、おもしれぇ。

(な、何やらブツブツおっしゃっているが…。てんでわからんな…。何の話だ?)
(いやいや、ペコルスよ、よいからまず、われらの窮状をお伝えしてじゃな…。)
(そ、そうだなっ。)

はっ。そうです。われら、あなたさまに導かれし者は、ゴスやヴァンダルたちがローマへ攻め入った後、この地、バルトの湖沼地帯を得て、かれこれ700年あまり、この地で生をまっとうしてきたもの。大地を愛で、海と、河と、湖と、穀物を慈しみ、雷を敬い。そしてわれらのような若き一団は、年ごとに、季節が来るたび、狼を祀り、その毛皮をかぶり、戦士として、部族を護ってきたのです。しかし、、いまや我ら、風前の灯。

…のようだな。旅の道すがら、惨状を眼にしたが、しかし…

はっ。

おまえら、もうダメだな。

ええっ!!そんなっ!

部族は、文物は、永遠ではない。わしはこの永き生の中で、滅びゆく種族を山とみてきた。いや種族だけではない。ローマのような大帝国とて同じだった。そしていま、お前たちにはその、滅びゆく種族と同じにおいを感じる。

そ、そんな…(T_T)

時の流れは非情よのぉ。おまえたちのように、これほど長らく続いてきた一族であっても、いつかは、大いなる時の流れ、勢いを増した新しき者の濁流に飲まれ、飲み込まれ、やがて、消えゆく…。

う、う、もう、どうすることも?(T_T)

流れは止められんこともある。いや、そのほうが多いと言っていいだろうな。しかし、何も消え去るわけではないぞ。おまえたちの言葉、気風、文化、そうしたものは喪われるやもしれんが、うまくすれば新しき者どもに混じって、お前たちは生き残ることもできる。

やつらに、やつらに同化せよと!?やつらの神を受け入れ、やつらの言葉を覚え、そ、それに何の意味がありましょう!

まあ待て。そう捨てたもんではあるまい。わしも友人に聞いた。北の半島でも、西の島でも、われらのイトコたちが新しき国を築いているというではないか。すぐ西にあるポーランドとやらいう地もな。あれはほれ、レフ族のやつらだろう。それにその、おまえたちが恐れ忌み嫌う騎士団とやらも、そのイトコたちと同じぞ。かつてはほれ、ゴスやアラマンニのやつらと、スエビたちも一緒に、時々黒い森に集っては大きな祭りを開いていたではないか…っと言ってもおまえたちワカモノはわからんか…いや、わるかった。

…。

とにかくだ。旧き物にこだわり、父祖の教えたものだけを守ることが、一族を護ることとは限らんぞ。変化に眼を向け、新たな流れを見出し、おぬしたち自身や孫子のために、新たな道を選ぶこともまた、部族を護る勇気と心得よ。

…そ、そんな…。神まで、神まで我らを見捨てるとは(T_T) ヒドイ。もうおしまいだ。頼りにしていたのに。あんたに頼ろうと思ったおれたちがバカだった。あんたみたいな寝ボスケ野郎に、何がわかるってんだよ、バカヤローーー!!(T_T)

おいおい、逆ギレかよ…。わしは神ではないというておるに。。。それに寝ボスケでもない。ただ、長い旅と見聞にちとつかれてな…。すまんが、もう少し寝かせてくれぬか。

そして起きたときには、そなたらが新しき国を創っておるのを、楽しみにしておるぞ。。。。ぐーぐー。すぴーすぴー。


あああ!(T_T)
神が、ネウリのお方が、ネウロさまが、また、眠りについてしまった!!

おしまいだーーーーー(T_T)