2015年11月28日土曜日

Nov 2015 - 1893年 

ジョセフィン・ジョースター、そして彼女の家庭教師カミラ。館で出会った二人は、アーサーにとって、運命の女たちだった。やがて、歯車は回り始め…物語は急展開を迎える。日記はページを失っている部分もあったが、アーサーの身に起きたヒゲキを知るには十分だった。


- 1893年 - 


1月1日

年が明けた。昨夜から雪が降り続いてる。

だが、どうもツキが回って来たらしい。あの館に行った後、アニキとおれとでニクをぜんぶ売り切った。

いや、どうやら、ジョースターの屋敷に招かれたことが街で噂になったらしい。おれたちのことを白い眼でみていたやつらの表情が変わった。くやしいが、これが受け入れられたということなんだろうな。けっ。やれやれだ。

まあ、おかげでいい年越しが出来た。小娘に礼を言った方がよさそうだ。後で屋敷をのぞいてみよう。






1月3日

昨日は屋敷に泊めてもらってしまった。

いや、酒をふるまわれてそのまま寝てしまったなんて、みっともないことだ。

しかしうまい酒だった。ジョースター卿が西の島で手に入れたものらしい。あれはマデイラのようだが、恐らく最高級だろう。フツウならおれたちの口に収まるシロモンじゃねえ。

それから、カミラは、気立てもいいとわかった。


1月7日

きょうはずいぶんと話をした。ようやくいつもあのうちに二人しかいないわけがわかった。

なんでも卿は探検家、いや、探検を趣味にしているらしく、妹の婿にあたるカニンガムとかいうやつと二人で、いまはアジアのどこからしい。

それであの二人が留守番というわけか。前に店にきた執事も、いまは旅の共だという。

ちょっと物騒じゃないか?

まあ何かあったらおれがいるか。いやいや、何を言っているんだ、おれは。


1月13日

ちくしょう。マズいことになった。確かに、浮かれてた。アニキのことをすっかり忘れるなんて。

アニキは怒ってる。おれが、屋敷に行ってたことを黙ってたのをずいぶん怒ってる。

しかしいったいどこで聞いたんだ?そうか、酒場か。。いまやおれが屋敷に出入りしてることは、屋敷に品物を納めている業者のやつらなら誰でも知っているからな。

ちくしょう。アニキに隠すつもりはなかったんだが。。。

いや、正直言うと、あのアニキの風体をみせたらさすがに、もう呼んでもらえないんじゃないかとちょっとビビってたんだろうな。

アニキ、すまねえ。明日はアニキを連れて行きたいよ。


1月14日

よかった。やっぱりカミラは賢い女だ。あのアニキをみても、嫌な顔ひとつしなかった。

ジョセフィンも、いつものようににこやかだ。もっとも、ジョセフィンは店でアニキをみてるんだったな…。

アニキもキゲンを直してくれたようだ。次からは仕事が終わったら二人で遊びに行くことにしよう。



2月1日

驚いた。

アニキのあの左眼、どうみても、カミラに惚れた眼だ。アニキはわかりやすい。

まああのカミラなら仕方ないだろう。

だけど、おれは思う。カミラはきっと、おれのことを気に入っている。

でもおれはどうなんだ?

いい女だとは思うし、話していると楽しいが、愛しているのかどうかは、正直まだわからない。


2月2日

アニキに、カミラが好きだと聞かされた。

やっぱりな。

しかもあれは相当ホンキだ。

やれやれ。

しかしまあ、わるい話じゃあない。

ヒトを好きになるのはいいことだ。


おれは、どうなんだろうか。



2月14日

ああ!展開が早すぎる!

アニキがそんなにも入れ込んでいたとは、気付かなかった。

きょう、カミラに、アニキから結婚を求められたと聞かされた。

おれは、、おれは、、何も言えなかった。

カミラはどう言ってほしかったんだろう。

おれは、どう言いたかったんだろう。


それにしてもアニキもムチャだ。いくら彼女たちがおれたちに親切だと言っても、身分が、棲む世界が違いすぎる。おれはただ、カミラのことを見守っていられればそれでよかった。

結婚だなんて、何を考えているんだ。。。

ヘタなことをしてたら、ジョースター卿とやらに追い出されるぞ。そうしたらもうあの二人にも会えなくなるだろう。アニキ、少し考えてくれよ。


2月22日

きょうはジョースター卿たちが旅から帰ってくる日だった。

ジョセフィンが店に来た。

なんでも、叔父のカニンガム卿とジョースター家の執事が、旅先の事故で命を落としたらしい。帰ってきたのはジョースター卿だけだったという。

ジョセフィンは涙をこらえていた。

幼いのに気丈な子だ。

きょうはそばにいてやろう。

アニキは帰ってこない。どこへ行ったのだろう?まあよくあることだが。



2月23日

ジョセフィンを連れて屋敷へ行った。

うちに泊めたことを咎められると思ったが、違った。

いや、それどころじゃなかった。

ジョースター卿は、いったい何を考えているんだ?それにアニキは?

アニキとカミラが、結婚だって!?


2月30日

ようやく話が飲み込めてきた。

つまり、アニキは、ジョースター卿に、カミラとの結婚を願い出たというわけだ。本人の返事も待たずに。なんてむちゃくちゃなんだ。

そしてジョースター卿は、友を喪ったことで気がどうにかしていたのだろうか。

アニキに、カニンガム家の養子にならないかだなんて、信じられない。

つまりこういうことだ。ジョースター卿は、カニンガム氏の他界をまだ公表していない。こっそり、存命をよそおってアニキを養子にし、カニンガム家の男としてカミラと結婚させようということなのか。

そういえばカミラが言っていた。カミラは、ジョースター卿が若い頃に世話になった人物の娘で、家が没落した後も、ジョースター家のガヴァネスとして生活の面倒をみてもらっているんだと。ジョースター卿はカミラに、よくしてやりたいという思いが強いということか。カニンガム家の財産を、カミラに継がせてやりたいと。それにしてもなぜアニキなんだ…。

ああ、なんてことになったんだ。

やっぱりおれは、カミラがアニキと結婚だなんて、イヤだ。

だが救いは、アニキが乗り気じゃないことだ。驚いたことに、アニキはここしばらく、浮かない顔だ。

まあそうだろうな。カニンガム家の跡取りになって、ジョースター卿と共に、両家の探検事業を行ってくれだって?そいつはいい。いい条件を出されたもんだ。アニキはああみえて、臆病だ。カニンガム卿が探検の途中に亡くなったってのを聞いたばかりで、そんな話を受けられるわけはない。

どうなることかと思ったが、ジョースター卿の気持ちが落ち着くのを待とう。

いくらなんでも、結婚はムリだ。カニンガム卿?アニキが?ありえない。


…それはおれだって同じことだけど。



3月14日

まさか、そんな。きょうはもう何も考えられない。


3月15日

カミラと話した。

カミラは、アニキの求婚を受けたいと言っていた。

そんな。どこかでおれのことを慕ってくれていると思っていたのは、おれの思い上がりだったのか?カンチガイだったのか?

いや、そもそも、おれはカミラに何も言っていないのだから、カミラがアニキを選んだとしても、何も言う資格はないのか。

ああ、いま頃気付くなんて。

おれはカミラが好きだったんだ。愛しているんだ。

ああ、だがアニキを喪うのもいやだ。

どうすればいいんだ!!!



…もう、何もかもどうでもいい。



3月20日

決心した。

カミラはあきらめよう。アニキとカミラ、二人が幸せになってくれればいい。

おれは、おれは、この国を出よう。

いいことを思いついた。明日、ジョースター卿に会いに行こう。




3月21日

春分。

きょうはおれの人生の分かれ道だった。

ジョースター卿とアニキに、すべてを話した。

二人とも喜んでくれた。

おれたちは兄弟で、カニンガム家の養子になる。そして、アニキは家を継ぎ、カミラを妻に迎え、二人でジョセフィンの世話をする。

おれは、、、ジョースター卿の条件、探検事業を引き継ぐ。


これでいいんだ。

アニキも、カミラも幸せになる。ジョースター卿も喜んでくれる。みんなが幸せになる。ジョセフィンもさみしくないだろう。

そして、おれは、

彼らの幸せな姿をみないで済む。

おれはちいさい男だ。

さらばだ、アニキ。

さらばだ、カミラ。