2015年11月28日土曜日

Nov 2015 - 1898年 

カミラへの思いを断ち切るため、そしてジョースター家とカニンガム家の幸せのため、みずからは危険な大陸をしゃにむに駆け抜け続けるアーサー・カニンガム。その足跡は、ついに暗黒大陸、アフリカへと至った。

そして時は1898年…。アーサーの元に、衝撃の便りが。。。


- 1898年 - 


1898年7月25日

ここは暑い。

そしてワタシも熱い。

この大陸は、おもしろい。

そして、獣たちの、

なんと美しいことか!!



ここは、アフリカ

前人未到の地の多く残る、サバナと、砂漠と、そしてジャングルの大陸。

大地溝帯と呼ばれる地域の探検は、ロンドンの新聞でも大きく報じられたらしい。

らしい、というのは、、

そう、ワタシはもうしばらく、ロンドンに帰っていない。

あのクリスマスの日以来。

みなの消息も、知らない。




いまや、この大陸で生涯を過ごすのではないかという気がしてきた。

部族の者たちもみな気のいいやつらだ。いや、気性の荒い部族もいるが、荒事には慣れているし、まあ、笑えばなんとかなる。笑いは、ヒトのはじまりだった気がする。なぜならこの大陸のサルどもも、よく笑うのだ。

昨日は、新たに知り合った部族に案内されて、彼らが聖なる森だというジャングルの奥地に入った。

驚くほどに美しい獣たちがいた。

最近はもう、獣を集めたりはしていない。あまりに美しく、眺めることはできても、手を触れることすら畏れ多いのだ。

それはまるで、まるで、、いや、、



8月10日

きょう、手紙が届いた。

いったいどうやってこの地にワタシがいることがわかったのかフシギだが、それはワタシ宛てだった。


いや、そんなことはどうでもいい。

これに書かれていることは、、

ホントウなのかっ!!?


ジョースター卿が、、

ジョセフィンが、、

命を落としただなんて…。


それに、、

ジョースター邸が炎上?

いったい、何が…


手紙の主はスーザン。一刻も早く帰国されたしとあった。

兄は?

それに、カミラ、カミラはいったいどうしたのだ!?わたしの知る限り、二人はカニンガム邸を貸し出し、ジョースター邸で暮らしていたはずだ。二人は無事なのか?


明日すぐに帰国の手筈を整えよう。



8月11日

よりによってこんな時にっ。

部族紛争が起きた。

聖なる森へヨソモノを入れたことがきっかけらしい。くっ。わたしのせいか。。


しかし弱った。港へ抜ける道が使えない。早くロンドンへ帰らねばならないというのに。



8月14日

なんとか港へ出た。

しかしロンドンへの船が出ない。海賊騒ぎだと?こっちはそれどころではないのだ。

港は海賊船だらけだという。いいだろう、ならばその船を奪ってでも、ロンドンに帰らねばっ。











10月4日

ジョースター邸へ行った。

スコットランドヤードの警部とスーザンに会うことができた。スーザンは騒ぎの後ずっと、納屋に住んで屋敷を守ってくれていたらしい。感謝しなければならない。

しかし、彼女の言うことは信じられない。

そんなことがあるはずがない。

いやそもそも彼女はまだすべてを語っていないようだ。


10月5日

再び、スーザンの話を聞く。

同じ話の繰り返し。

警部も不信感をあらわにしている。

当然だ。


10月6日

いいかげんにしろ!

スーザンめ、バカにしているのか。

カミラが、

カミラが、

カミラが二人の命を奪ったなどと、ふざけたことを!

警部のあの顔、あれはスーザンを疑っている眼だ。実際、そうかもしれない。

カミラが、突然バケモノのようになってジョースターさんを襲った?喉笛を噛み切った?

そんなのウソに決まっているっ


10月7日

警部とスーザンが口論になった。

警部はタイホをほのめかした。

実際、はじめからスーザンを疑っていたのだろう。だが、外国人だからと疑ってはいないと示そうと、ここまでガマンしてきたようだ。彼は紳士だ。

だがスーザンはホンキで怒った。泣きながら怒った。ワタシはあの顔を知っている。彼女の部族が皆ゴロしにされたとき、彼女がみせたチの涙だ。おれはあの顔を知っている。

彼女は、少なくともウソをついてはいない。

ではいったい何を見間違えたというのだ…

それに、警部はあの時、何といった?「カニンガム卿の一件もおまえだろう!」そう言わなかったか?カニンガム卿とは兄のことか?いったい兄に何が起きたのだ?なぜ兄は現れない?


気が付けばワタシはスーザンの手を引いて逃げていた。


やっかいなことになった。明日の新聞の見出しはきっと、こんな感じだろう。

「ジョースター家とカニンガム家、乗っ取り事件」-元ゴロツキの似非探検家、インディアンの悪女と結託の上、両家の当主をサツガイ


だがワタシは、スーザンを信じる。

少なくとも、彼女はやってない。

ではいったい、誰が…

兄はどこに…








10月7日 追記

夜中、スーザンに起こされた。大事な話があると言って起こされた。

まさか。まさか兄が、二年も前に他界していただなんて。

まったく知らなかった。そうなのだ、あのスーザンの手紙がアフリカのワタシの元に届いたのはホントウに奇跡だったのだ。

それ以前にもスーザンはたびたび手紙をよこしていた。しかし、ワタシの元にはそれが届いていなかった。スーザンはここ数日のワタシの様子からそれを悟ったのだという。

兄は、シんだ。

まったく知らなかった。なんてことだ。

それに、ああ。カミラが身籠っていたなんて。そしてその子を喪っただなんて。まったく知らなかった。なんてことだ。

それはいったい。




スーザンによれば、三年前、カミラの懐妊がすべてのきっかけだったという。

はじめは喜んだ二人だが、やがて大きな問題が起きる。カミラの容体はよくなかった。

医師は、こどもか母体かいずれか選ばなければならないと言ったそうだ。そして、兄はカミラを、カミラは子を、それぞれ選ぼうとした。

愛に基づいたものだったと信じたいが、やがて二人は口論が絶えなくなったという。

そして、1896年の10月、街から帰ってきた兄は、酒場で浴びせられた心無いヤジを真に受けて、カミラを責めたそうだ。そう、すべてはワタシのせいだ。。


やがて、研究室に逃げ込んだカミラとそれを追った兄とのあいだで激しい言い争いとなり、スーザンはたくさんの物が投げつけられる音、壊れる音を聞いた。そしてその物音が収まった後、部屋に入ったスーザンは、床に倒れた二人を見つけたのだという。

スコットランドヤードの警部(昨夜ワタシがまいたあの警部だ)がやってきて事情を聴くと、すぐに医師と産婆を呼んでくれたそうだが、おなかの子は、出てきたときにはもう。

そして、兄は、命を落としていた。

カミラは一命を取り留めた。

だがスーザンは言う。あれからカミラは、変わったのだと。